大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和42年(行ウ)36号 判決 1971年8月30日

名古屋市昭和区円上町一丁目一六番地

原告

風岡利勝

右訴訟代理人弁護士

藤井繁

阪本貞一

名古屋市瑞穂区瑞穂町西藤塚一丁目四番地

被告

昭和税務署長

竹内正札

(口頭弁論終結時在間札尚志)

名古屋市中区南外屈町六丁目一番地

被告

名古屋国税局長

中西清

(口頭弁論終結時小田村四郎)

右被告等指定代理人

中村盛雄

吉田文彦

中山実好

今泉常克

高橋健吉

主文

原告の各請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は被告昭和税務署長が原告に対して昭和四〇年七月一日付でなした昭和三九年分所得税の総所得金額を一、三七〇、〇〇〇円(算出税額一六五、五〇〇円)と更正した処分のうち八三九、〇〇〇円(税額七八、六〇〇円)を超える部分及び当更正処分に伴う二五、八〇〇円の重加算税処分をいずれも取消す。被告名古屋国税局長が昭和四二年五月二〇日付で原告に対してなした裁決第二六八-九号昭和三九年分所得税の更正処分および重加算税の賦課決定処分について原告に対する審査請求についての裁決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、請求の原因として

一、(1) 原告は頭記住所地において印刷業を営むものであるが昭和四〇年三月一三日被告昭和税務署長に対し昭和三九年分総所得金額六三一、〇二九円を確定申告したところ同被告は昭和四〇年七月一日所-所第一〇七三号によりこの所得金額を一、三七〇、〇〇〇円と更正処分を行い、併せて過少申告加算税一、七〇〇円及び重加算税二五、八〇〇円の賦課処分を行いその旨原告に通知してきた。原告の申告所得金額による算出税額は四三、八〇〇円であり、更正所得金額による算出税額は一六五、五〇〇円である。

(2) 原告は昭和四〇年七月三一日同被告に対し異議申立をしたが、同被告は昭和四〇年一〇月二九日付所-所第二一一六号でこれを棄却する旨の決定をなしその旨原告に通知した。

(3) しかしながら原告の所得金額六三一、〇二九円は全く生計を別にする原告の長男光夫夫婦に支給した給与計五三一、〇〇〇円を必要経費として控除後のものでこれを不当とした被告の処分は所得税法第一一条の二を不法に適用したものであり、違法取消の事由がある。

二、原告は昭和四〇年一一月二九日被告名古屋税局長に対し前記処分に対する審査請求をしたところ、同被告は昭和四二年四月二〇日名局審第二六八-九号により被告昭和税務署長のなした不当、違法な処分と全く類似する請求棄却の裁決をなした。従つて前項(3)に述べた通り同裁決は違法取消の事由がある。

三、以上の次第で右各処分は夫れ取消さるべきである。と述べ、被告等の主張事実三冒頭の争点整理については争はない。同(一)の被告等の列挙事実のみが原告の主張の根拠ではない。同(二)(1)の原則論はその通りであるが光夫夫婦は昭和四二年からはすでに瑞穂区萩原町二-六〇萩原荘三号室に居住しているが被告等はこの点を知らないのか、かくしているのかわからないがこの事実を認めようとされないのは実態に即して観察すべきことを否定していることになる。同(2)の点はこれこそ形式主張であり、自己 着である。(3)の奥山篤男の言辞は否認する。(4)の点は(2)の点と同様である。(5)の点を否認する。光夫夫婦は昭和三六年四月から前記加藤善太郎方二階(六畳半一間、あと板間押入付約一〇坪)のうち南側六畳一室を賃料月額二、五〇〇円で賃借し、原告より光男は月額三二、〇〇〇円、妻信子はパートタイムとして月額五、〇〇〇円の給与の支払を受け、それにより独立した生計を営んでおり、それ以外原告より生計費の支払は受けたことはない。炊事の別個であることはいうまでもない。長男夫婦は昭和三九年当時に限らず昭和三六年より現在に至るまでベースアップによる給与に変動はあるが、言告より支払われる給与のみによつて生計を維持していることは勿論である。従つて原告は昭和三六年から光夫夫婦より給与所得に対する所得税源泉徴収を行い。光夫夫婦はその結果所得税は勿論、市民税、国民建康保険料も支払つてきた。これは光夫夫婦が給与所得者であることを認められてきたからに外ならない。光夫夫婦が原告の専従者(扶養家族)にすぎないならば所得は零であり、所得税はいうまでもなく市民税、国民建康保険料を支払う必要のないことはいうまでもない。以上のとおり光夫夫婦は原告にとつて給与労働者であり、生計を一にするものでないことは明白である。次に憲法論として、仮に光夫夫婦は原告と生計を一にする親族と認められたとしても旧所得税法第一一条の二第三項は憲法第二七条、第二五条、第一四条に違反して無効である。従つて右法条を根拠として原告の長男光夫夫婦に対する給与を否認し、必要経費として認めない本件更正決定は無効である。(イ)憲法第二七条は労働権及び労働力に対する正当な賃金が支払われるよう保障するものであることは明白で、このことは自家営業における家族労働者であつても同様である。ところが旧所得税法の右法条は自家営業における家族労働者の賃金を否認し、大家族主義のもとに家族従属労働を強いるものであるから憲法第二七条に違反する。(ロ)憲法第二五条は建康で文化的、最低限度の生活権を保障し、国はすべての生活部面についてその向上、増進に努めなければならない旨を規定する。従つて生活向上、増進を阻害してはならないし、これを阻害するいかなる施策をも無効と宣言するものである。ところが旧所得税法の右法条は自家営業主(白色)が家族労働者に対して名目のいかんを問わず当然支払うべき経費を必要経費として認めないものであるから生活権を侵害するものであるから憲法第二五条第二項に違反すること明白である。(ハ)又旧所得税法第一一条の二第四項は青色の場合生計を一にする場合であつても、給与相当分を必要経費として認めているのであるが、白色の場合と差別しなければならない合理的理由は何等存しない。従つて憲法第一四条にも違反し無効である。と述べた。

被告等は主文と同旨の判決を求め、答弁として請求の原因たる事実一(1)、(2)の各点を認め、(3)の点を争い、二のうち原告の審査請求に対し被告名古屋国税局長が請求棄却の裁決をした点を認め、その余の点と三の点を争い、被告等の主張として

一、名古屋国税局長に対する本件裁決の取消を求める訴は主張自体理由がない。すなわち、原告は本訴において被告昭和税務署長のなした昭和三九年分所得税の更正処分の取消にあわせて被告名古屋国税局長が行つた右処分についての審査請求を棄却した裁決の取消を求められるが行政事件訴訟法第一〇条第二項によると、処分の取消の訴とその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消の訴を提起することができる場合には裁決の取消の訴においては処分の違法を理由として取消を求めることができない。と規定されている。しかる本件被告名古屋国税局長に対する裁決の取消を求める訴は原処分の違法をその請求の原因とするものであるから主張自体理由のないものであることが明らかである。よつて速に棄却されるべきである。

二、本件確定申告と更正処分は左表の通りである。

区分 確定報告 更正額または賦課決定額

(一)  総所得金額 六三一、〇二九(円) 一、三七〇、〇〇〇(円)

内訳(営業所得金額) (六三一、〇二九) (一、三七〇、〇〇〇)

営業所得の更正額の内訳は後記営業所得計算表の通り

(二)  所得控除額 二五八、七五一 三九七、五五一

内訳(社会保険料控除) (三六、八五一) (三六、八五一)

(生命保険料控除) (三四、四〇〇) (三四、四〇〇)

(扶養控除) (七〇、〇〇〇) (二〇八、八〇〇)

(基礎控除) (一一七、五〇〇) (一一七、五〇〇)

(三)  課税所得金額(一)-(二) 三七二、二〇〇 九七二、四〇〇

一〇〇円未満切捨

(四)  算出税額 四三、八〇〇 一六五、五〇〇

(五)  申告納税額 四三、八〇〇 一六五、五〇〇

(六)  過少申告加算税  一、七〇〇

(七)  重加算税  二五、八〇〇

営業所得計算表

(一)  総収入金額(売上金額) 三、〇二七、四二四(円)

(二)  必要経費 一、四八四、七五五

内訳 売上原価 五七五、四一七

公租公課 一五三、八九四

水道料 一、一一二

光熱費 一二、五四六

旅費通信費 三一、九九九

広告宣伝費 三、二〇〇

接待交際費 八九、四六三

火災保険料 二、七三三

修繕費 四〇、六〇六

消耗品費 一〇六、五六五

減価償却費(建物以外) 一五七、〇九五

外注工賃 二四四、三〇五

雑費 六〇〇

雇人費 四一、七〇〇

地代家賃 二三、五二〇

(三)  専従者控除額 一七二、六〇〇

(四)  差引営業所得金額(一)-(二)-(三) 一、三七〇、〇六九

但しその後の調査により原告の長男光夫夫婦は旧所得税法(昭和四〇年法律第三三号により改正される以前のもの)第一一条の二第三項の事業専従者に該当するものと認められたので従来の扶養控除に代えて専従者控除とすることとし、国税通則法第二六条に基づき総所得金額一、一九七、四〇〇円、所得税額一四六、七五〇円と減額の再更正処分をなし、昭和四二年一一月二〇日付で原告にその旨通知をなすとともに国税通則法第三二条二項に基づき重加算税二〇、四〇〇円と変更の賦課決定をなし昭和四二年一二月一三日付で原告にその旨通知した。

従つて前記確定申告と更正処分の表中(二)所得金額は二九七、五五一円、扶養控除額は(一〇八、八〇〇円)(三)課税所金額(一)~(二)は八九九、〇〇〇円、(四)算出税額と(五)申告納税額は共に一四六、七五〇円、(七)重加算税は二〇、四〇〇円に、営業所得計算表中(三)専従者控除額は三四五、二〇〇円、(四)差引営業所得金額(一)-(二)-(三)は一、一九七、四〇〇円となる。

三、本件の主たる争点は原告の長男風岡光夫とその妻風岡信子の両名が旧所得税法第一一条の二第三項にいわゆる生計を一にする親族であるかいなかにある。

(一)  原告は生計を一にしていないとする主張の根拠として、長男光夫夫婦は昭和三六年中名古屋市昭和区円上町一の一七加藤喜太郎が賃借せる家屋の二階六畳一間を借受けてここに転居し、その後もずつとそこで生活をなし昭和三九年当時も原告と別居していたので所得税法に所請生計を一にする親族に該らないと被告の調査担当者に対して申述べるとともに右の事実を証するものとして住民登録票と米穀通帳を呈示し、昭和三六年六月一四日右加藤喜太郎方に異動し、米穀通帳も原告と別個になつており、国民健康保険も別個に加入していることを強調し、生計を一にするものでないと主張していた。

(二)  しかるに(1)一般に住民登録については世帯主から異動の申請があれば通常形式的要件のみを審査し、その実態についてまでは殆んど調査していないのが実情であるから、住民登録上の住所が異動しているという事実のみでは別居しているとの理由にはならないというべきで、あくまで実態に即して観察すべきである。現に前記加藤喜太郎が賃借していた家屋は道路拡張のため昭和四二年に取環され現存していないのにも拘らず今なお原告の長男夫婦の住民登録上の住所はそこになつている。(2)昭和警察署白金派出所の台帳では係争年当時光夫夫婦は原告と同一世帯の一員になつている。(3)昭和三九年三月項まで原告の事業に従事していた使用人奥山篤男は光夫夫婦は結婚後もずつと原告と同居してその世帯を一にし、起居寝食をともにしていた旨を申述べている。(4)原告と光夫親子三人は町内会の台帳である災害対策住民票によると同一世帯となつており、光夫は原告と別に町内会費を納めた事実はない。(5)昭和三九年当時名古屋市昭和区上町一の一七加藤喜太郎賃借家屋の二階を間借りしていたのは昭和区東郊通り七丁目二番地医療法人高橋病院であつて、実察に使用していたのは同病院の従業員であり、その他の者が使用していた事実はなかつたので被告昭和税務署長は原告の長男光夫夫婦が原告と生計を一にしていると認めた。尚光夫夫婦の源泉所得税、市民税、国民健康保険料についてはこれらは自主申告、自主納付を原則とし、これらは関係行政庁において必ずしもその実体、内容についてまで全部調査確認がなされているとは限らず(乙第一二号証の一、二参照)、既に源泉所得税についてはその後の調査により、原告には光夫に対する関係において源泉徴収義務のないことが判明したので被告は光夫に係る納付済の源泉徴収税額を原告に運付した。光夫夫婦は前記加藤喜太郎方に間借していた事実はないのに原告は光夫夫婦が右加藤方二階を間借していたかの如く装い、生計を一にしていた事実を隠ぺいし、光夫夫婦に給与を支給したとして本件係争年度分の事業所得計算上これを必要経費に算入し確定申告を出したのであるから被告が右必要経費算入を否認し、併せて原告の右仮装隠ぺい行為を理由に重加算税を賦課決定したことも正当である。

原告の憲法第二七条違反の主張については、憲法第二七条第一項は国に対して国民に勤労の機会を提供すべく、それができないときは適当な失業対策を講ずべき義務(政治的義務)があることを規定したものであつて、原告主張のように特定の労働に対する特定の賃金の支払の問題とは全く関係のないことが明白であつて、原告の所論は華強附会の違憲論でしかない。憲法第二五条違反の主張については、憲法第二五条「‥‥の規定はすべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責任として宣言したにとどまる(最高裁判所昭和二三年(れ)第二〇五号、同年九月二九日大法廷判決、刑集二巻一〇号一二三五頁参照)いわゆる綱領規定であつて個々の法令との関係で違反無効の問題を怠起することはありえない。憲法第一四条違法の主張については、旧所得税法第一一条の二はいうまでもなくすべての国民に対して適用されるのであつて、「人種、信条、性別、社会的身分又は門地」によつて何等差別があるわけではない。青色申告制度をいかなる内容のものにするかは立法政策の問題であり、またこれとの糧衝上白色申告の場合をどのように扱うかもまた立法政策の問題であり、その関係では憲法第一四条違反の問題を生ずることはない。と述べた。

証拠として、原告は甲第一ないし第一三号証を提出し、証人伊藤休治の証言と原本人尋問の結果を採用し、乙第一一号証の成立は不知と述べ、その余の乙号各証の成立を認め、被告等は乙第一号証、第二号証の一、二、第三ないし第一一号証、第一二号証の一、二、第一三号証を提出し、証人掃部実、同瀬川勇秋、同城戸厳の各証言を採用し、甲第二、第一〇、第一一号証の各成立を認め、甲第一、第一二、第一三号証の各成立は不知、甲第三ないし第九号証のうち各官署作成部分の成立を認め、その余の部分の各成立は不知と述べた。

理由

請求の原因たる事実一の(1)、(2)の各点と二のうち原告の審査請求に対し被告名古屋国税局長が請求棄却の裁決をした点は当事者間に争がない。而して原告が本訴において被告昭和税務署長のなした昭和三九年分所得税の更正処分の取消にあわせて被告名古屋国税局長が行つた右処分についての審査請求を棄却した裁決の取消を求めていること、右裁決の取消を求める訴が更正処分の違法をその請求の原因とするものであることは記録上明らかなところであり、従つて行政事件訴訟法第一〇条第二項により被告名古屋国税局長に対する右裁決の取消を求めることができないので同被告に対する右の訴は被告等の主張一における通り理由がない。

次に成立に争のない乙第一、第六、第七号証及び弁論の全趣旨によると被告等の主張事実二のうち(一)総所得金額ないし(七)重加算税の部分と所得税及び重加算税の再更正処分の点を認めうべく、同認定の事実と弁論の全趣旨によると原告の長男光夫夫婦が旧所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの)第一一条の二第三項所定の生計を一にする親族である点を除くその余の点を認定しうる(原告は右除外部分を除くその余の点については積極的にこれを争うことをせず、右除外部分に争の焦点を絞つている)。

而して本件の主たる争点が原告の長男光夫夫婦が右生計を一にする親族であるかいなかにあることは当事者間に争がなく、被告等の主張事実三の(一)の点は原告の明らかに争わないところであり(但し原告はその他にもその事由のある旨を付陳している)、同(二)の(1)の点は原則論として原告はこれを争わず、同(2)、(4)の各点も原告はこれを争わず(この点を被告等の論法に従い形式主義であり自己撞着であること難じ)、成立に争のない乙第八号証によると同(3)の点を認めうべく、成立に争のない乙第九、第一三号証、証人瀬川勇秋、同城戸巌、同伊藤休治の各証言によると同(5)の点を認めうる。甲第一、第二号証中右認定に反する記載部分は右乙第八、第九号証の各記載に対比して借信しがたく、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。又第三者の作成にかかり真正の成立を認めうる乙第一一号証と弁論の全趣旨によると原告の長男光夫が風岡弘郎名下に妻信子との間に儲けた長男風岡正樹の入園願書にその住所として原告の肩書住所を挙げ、職業又は勤務欄に印刷手伝い、自家営業と記入していることが認められる。これらの各認定事実ないし右各証拠によると原告が本件課税年度当時原告の長男光夫夫婦が原告と別居し原告住居し原告住居の隣番地である円上町一丁目一七番地に居住した証拠とせる甲第一、第二号証、原告本人尋問の結果における供述部分は前記の如く到底措信しがたく、よつてこの点に関する原告の主張事実はその基底が崩壊したこととなるので被告昭和税務署長が前記各認定事実に基き原告の長男光夫夫婦が前記旧所得税法第一一条の二第三項所定の原告と生計を一にする親族と認めたのは正当であるといわねばならない。尚原告の長男光夫夫婦の源泉所得税、市民税、国民健康保険料の支払の主張事実は被告等の争わぬところであるが、成立に争のない乙第一二号証の一、二、原告本人の供述によると昭和税務署長はその後の調査により原告には源泉徴収義務のないことが判明したので原告の長男光夫に係る納付済の源泉徴収税額を原告に還付したことを窺知できる。原告は右の旧所得税法第一一条の二第三項は憲法第二七条、第二五条、第一四条に違反して無効であり、従つて右法条を根拠とせる本計更正決定は無効である旨主張するところ本件は更正処分等の取消を求める訴であり、同処分等無効の確認を求める訴ではないが序にこれにつき触れることとする。

憲法第二七条第一項はすべて国民は勤労の権利を有し義務を負う。となし、同第二項は賃金、就労時間、休急その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。となし、右旧所得税法第一一条の二第三項は生計を一にする親族の賃金を否認する趣旨を規定するところ、これは課税政策上該賃金を必要経費として控除の対象とすることを否認するに止り、同親族は扶養控除ないし事業専従留控除の取扱を受けるものであり、原告の言らが如く右の否認をもつて大家族主義のもとに家族従属労働を強いるものとは言い難く、生計を一にする親族が事業主たる親族より勤労の対価を受けることを拒否しているものでないことが明らかである(青色申告の場合参照)。加うるに憲法第二七条第一項は被告等所説の通り、国に対し国民に勤労の機会を提供すべく、それができないときは適当な失業対策を講ずべき義務(政治的義務)のあることを規定したものであつて、特定の労働に対する特定の賃金の支払の問題とは全く関係がないのでこの点に関する原告の所論は間違つている。

憲法二五条が原告の指摘する如く規定していることは明らかであるが、同条は被告等所説の如くいわゆる綱領規定で、この権利は具体的、現実的な請求権ではなく、国にその責務を負担させ、これを国政上の任務にしたものであり、個々の法令との関係で違法無効の問題を惹起しえないので原告の所説は首肯しえない。

憲法第一四条違反の点についても被告等所説の通り原告の所説は妥当でない。

以上の如く被告昭和税務署長の本件更正処分と重加算税の賦課決定処分には原告の主張する如き右旧所得税法第一一条の二第三項を不法に適用した違法の兼は認められなく、その他これら処分を取消すべき事由も認められない。よつて原告の右請求をいずれも失当として棄却し、民事訴訟法第八九条により主文のように判決する。

(判事 小沢三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例